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土木分野へのAIの活用に関する教育,研究

上下水道,道路,鉄道,橋,トンネル,ダムなどの土木構造物は,その計画と設計のプロセスを経て建設されます.構造物によっては,設計と建設の間に,構造物の一部を工場で組み立てる製作のプロセスがあります.建設が終わると,土木構造物は健全な状態で末永く使用できるように,定期点検,塗装の塗り替えや補修を継続的に行う,維持管理のプロセスに入ります.それぞれのプロセスでは,多くの土木技術者や作業員が活躍していますが,わが国では,急速に進行する少子高齢化によって,彼らの高齢化や減少も進んでおり,人手不足が深刻な問題になっています.

人手不足を解消するための切り札とされているのが,IoT(情報通信技術)やAI(人工知能)の活用です.例えば,それらを駆使することにより,道路の工事現場では,油圧ショベルやロードローラーを都心のオフィスから遠隔制御し,工事の計画に沿って自律的に作業させることによって,無人化や省力化を図ることが挙げられます.また,土木構造物の維持管理では,例えば,コンクリートのひび割れに関する写真をコンピュータに学習させ,コンクリート製橋脚の表面をUAV(ドローン)等で撮影した膨大な写真から,その表面に生じたひび割れの有無,ひび割れの位置や長さをコンピュータに自動判別させることによって,土木技術者の点検に要する労力を大幅に削減することも可能です.このほかの設計や製作などのプロセスも含めて,これらのように,主に定型化した作業を自動化するため,土木分野ではAIやIoTを活用する動きが急速に広まっています.

 

都市システム工学科では,このような動きを見据えて,AIやIoT技術の土木分野への活用に関する教育や研究を進めています.一番上の画像は,専攻科の学生が作成したAI学習用の資料の一部です.AIやIoTの開発に多用されている,プログラミング言語Pythonの実行環境ANACONDAのパソコンへの構築と,Pythonで書かれたプログラムとサンプルデータを用いた簡単な統計分析について説明しています.また,機械学習と呼ばれる手法を使った,都道府県別の住宅戸数の予測が演習できるように,上から二番目の画像のような資料とともに,サンプルプログラムとデータも専攻科の学生によって作成されています.これらの教材は,高専の学生のみならず,広く土木構造物の維持管理(メンテナンス)に携わる技術者にも活用していただくため,下記の舞鶴工業高等専門学校のiMec(社会基盤メンテナンス教育センター)のホームページで無料公開しています.

 

https://www.maizuru-ct.ac.jp/imec/archive.html#knowledge

 

一番上の写真は,卒業研究として,AIを活用して鋼材の強度を他の材料特性値から推定しているところです.上から二番目の写真のように,AIに関するPythonで書かれたプログラムは,ノートパソコンにインストールされたANACONDAに含まれている統合開発環境のSpyderで編集や実行ができます.上から三番目の写真は,パソコンの画面を写したもので,分析に使用するステンレス鋼の強度や材料特性値に関するデータを編集しているところです.上から四枚目の写真は,機械学習と呼ばれる方法を使ってデータを分析しているところです.分析にはパソコンを使用しますが,複雑な計算のため,少し時間がかかります.

 

推定結果として,一番下のグラフは,2種類の鋼材(鋼材A,鋼材B)について,縦軸には学習に使用した強度の試験結果,横軸にはAIによって推定された強度をとって,推定結果を示しています.グラフ中の青色の□シンボルは,従来の回帰分析と呼ばれる方法で得られる回帰式を用いた,鋼材Aの強度に関する推定結果,赤色の△シンボルは同じく鋼材Bの強度に関する推定結果を表しています.緑色の◇シンボルはAIを用いた鋼材Aの強度の推定結果,桃色の〇シンボルは同じく鋼材Bの強度に関する推定結果を表しています.さらに,このグラフの中には,試験結果に対する推定値の誤差がそれぞれ±10%,20%と0%を表す直線を引いています.つまり,青色の線上にシンボルがある推定値は誤差がなく,試験結果と推定結果が一致することを意味しています.このグラフから,緑色と桃色のシンボルで表されるAIによる推定結果は,誤差±10%を表す緑色と赤色の線に挟まれた領域にあります.それに対して,青色と赤色のシンボルで表される回帰式による推定結果の多くは,誤差20%を表す紫色の線と誤差10%を表す赤色の線に挟まれた領域にあります.このことから,従来の方法に比べてAIは高い精度で強度を推定できることがわかります.