報告
受験生の方
学生・保護者の方
地域・企業の方
卒業生の方
【都市システム工学科】 研究紹介~腐食したHビーム橋主桁端支点部の強度について~
都市システム工学科・構造解析学研究室では,橋をはじめとする様々な構造物の強さや,構造物に力が作用した場合の挙動を把握し,その成果を構造物の設計や維持管理にフィードバックするため,構造物の模型実験やコンピュータシミュレーション,シミュレーション法の開発も行っています.ここでは,腐食したHビーム橋の主桁端部の強度に関する研究について御紹介します.
2020年9月に国土交通省 道路局から発表された「道路メンテナンス年報」によれば,長さ2m以上に限っても,我が国には約72万もの橋があります.そのうち66%は市区町村によって管理されており,その81%は長さが2m以上15m未満の小規模な橋です.また,2020年6月時点においても,橋の管理に携わる技術者がいない全国の地方自治体は,市区で6%,町で23%,村では57%となっています.そして,2019年度に市区町村が実施した橋の修繕に充当した予算の92%は,国からの社会資本整備総合交付金によって賄われています.すなわち,市町村は国や都道府県に比べて小規模で多数の橋を,少ない技術者,厳しい予算で管理しています.
一番上の写真は,Hビーム橋の側面を写したものです.この橋の下から,写真に示しているピンク色の矢印の方向に写したものが上から2番目の写真です.この写真のように,Hビーム橋は,橋の床部分に相当する鉄筋コンクリート製の床版(しょうばん)を鋼製の主桁(しゅげた)で支え,主桁の間には複数の主桁で一体となって橋を支えるための横桁(よこげた)が取り付けられています.床版の上面には舗装が敷かれて自動車や歩行者が通行します.プレートガーダー橋と呼ばれる一般的な鋼製の橋では,補剛材(ほごうざい)と呼ばれる多数の鋼板が主桁に溶接され,構造が複雑であるのに対して,Hビーム橋は小規模な橋に適用され,その主桁には殆ど補剛材が取り付けられないため,構造が簡素で,点検,保守しやすいといった特徴があります.
上から3番目の写真のように,Hビーム橋に限らず,一般的に橋の端部は,温度変化による橋の伸縮変形を吸収するための隙間を設けて,伸縮装置が設置されます.同時に,この隙間は,盛り土など,他の道路構造物との境界となるため,一般的に構造上の弱点とされています.伸縮装置の付近には,橋を支える支点と,支点上の強度を増すために,その直上の主桁には支点上補剛材が溶接されます.支点部は橋に作用する力を地盤に伝える重要な箇所であるにもかかわらず,日ごろの手入れが疎かになると,劣化した継目部分から雨水や土砂が流れ込んで支点部に堆積し,上から4枚目の写真に示しているように,腐食が発生します.鋼材の腐食は,人間の虫歯と同じような現象で,その部分は溶けてなくなるため,構造物の強度が低下する要因となります.
Hビーム橋は,市町村が管理する小規模な橋にも採用されており,近年,上から4枚目の写真のように,主桁端支点部での腐食の発生も報告されています.市町村は厳しい予算制約下でこの種の橋の合理的な修繕計画を立てる必要に迫られており,そのためには,主桁端支点部が腐食した橋の強度を明らかにする必要があります.そこで,この研究では,上から3枚目の写真のピンク色の点線で囲って示す支点部に着目して,上から5枚目の写真に示すような模型を5つ製作しました.そのうち4つには,上から6つ目の図に示すように,腐食に見立てて断面を削り取る加工を行いました.この図の中に灰色で示すように,削り取る箇所は,主桁の桁端側と,片側支点上補剛材で,それぞれ板の厚みの半分を削ったものと,全て削り取ったものを準備しました.そして,上から7枚目の写真のように,それぞれの模型を万能試験機と呼ばれる機械に挟んで力を作用させることによって強度を調べました.
上から8枚目の図中のグラフは,実験から得られた力Pと力の作用方向の変位vの関係を示しています.Pは降伏軸力と呼ばれる力PYで割り,vは模型の高さHで割っています.図中の▽はP/PYの最大値を表しており,それぞれの模型が耐えることができた最大の力を表しています.つまり,この値が大きいほど,強度が高いことを意味します.グラフ中の凡例のES0は,断面を削り取っていない模型の結果を示しており,5つの模型の中で最も高い強度1.08を示しています.ES50,ES100はそれぞれ支点上補剛材下部を板の厚みの50%,100%削り取った模型の結果であり,最大値は0.99,0.91を示しています.GE50,GE100はそれぞれ主桁の桁端側を板の厚みの50%,100%削り取った模型の結果であり,最大値は0.96,0.91を示しています.したがって,削り取った断面積が大きいほど強度が低下していることがわかります.
上から9枚目の写真は,実験が終了した後の5つの模型を横並びに示しています.支点上補剛材,主桁とも鋼板の面外方向に大きく変形していますが,とりわけ,断面を削り取った箇所で大きく変形する傾向がみられます.
研究室では,このほかにも,老朽化した鋼構造物の強度評価に関する研究,AIや機械学習の活用によって構造物の諸問題を解決するための研究,構造物が破壊するまでの挙動を追跡するためのコンピュータシミュレーション法の開発などを行っています.都市システム工学科で構造物の研究をしてみませんか?








